第1回
『目利きに近道なし ウォーミングアップ編 』


2014年5月

今回の名品
中国商時代青銅器 (泉屋博古館所蔵 推定市場価格 約70億円)

 目利きになるにはどうしたら良いか。骨董屋なら全員真剣に悩む大問題です。先輩方を見ていますと、百人に一人くらい天才的な目利きがいて、その方はもう生まれつきセンスが卓越していて逆立ちしても敵わない。という方がおられます。また、そういう方に限って、人よりも勉強するものですから、一生追いつけません。しかし、残りの99%の骨董屋は地道な努力と弛まぬ勉強によって目利きへと成長します。私は明らかに天才ではなかったので、精一杯毎日勉強し続けて参りました。好きなことだから勉強は何の苦にも感じません。皆さんも沢山勉強して、楽しく目利きになりましょう!

 基本トレーニングですが、まずは間違いのない本物をできるだけ沢山、できるだけ真剣に見ましょう。一度に様々な名品が見られるという点では、東京国立博物館がオススメです。常設展が世界に誇れるほどに充実していますが、いつもガラガラでゆっくり見られます。東博に行けばアジア各国の数万点の優品、名品、良品が一度に見られますから目利きへの近道です。私は東博には千回は通い目筋の基礎を築きました。今でも訪れる度に感動致します。特に東洋館では、これいいな。と感じた作品の解説には全て広田松繁氏寄贈とあり、これは壺中居創設者、広田不孤斎先生の本名ですが、なんというお人だ!と深い尊敬の念を抱き、お会いしたことはないのですが、今でも先生の背中を追いかけております。皆さんも中国陶磁器を極めたいのなら、絶対に見てください!東博は東の横綱です。ちなみに西の横綱、東洋陶磁美術館の安宅コレクションも中国陶磁器は広田先生が納めた品ばかりです。東博と東洋陶磁を見た中国人の骨董屋が、本国よりも良い作品が沢山ある!と腰を抜かして驚いておりました。いかに広田先生、昔の日本人達が優れた目利きであったかを物語る文化的功績、文化的遺産でございます。青銅器ならば、東京根津美術館と京都泉屋博古館が両横綱でしょう。

 目利きに近道なし。本や写真だけの知識では目利きにはなれません。まずは千点、超名品だけを上から順に真剣に観ましょう!!次は一万点、ただただ真剣に無心で見てください。写真もメモもとらず、ただただ見惚れてください。それが一番記憶に残ります。